学校の音楽室にあるお馴染みの、ベートーヴェン晩年の肖像画は、どこか気難しく頑固で近寄り難い印象です。 <br />そしてあれこそが一般的なベートーヴェンのイメージだと思いますが、 若い頃の彼はむしろ社交的で明るく、サロンを賑わした青年音楽家でした。 <br /> 『優しき愛』はそんなベートーヴェン若かりし日の、まっすぐな純愛を歌った歌曲です。 <br /> 彼がウィーンに移住し、ピアノの即興演奏の名手として名を挙げていた、1795年頃にカール・フリードリヒ・ヘロゼーの詩を用いて作曲されました。 <br /> <br /> <br />君を愛している 僕のことを君が愛しているように <br />昼も夜も ふたりが憂いを分かち合わない日は一日もなかった <br /> <br /> ふたりで分かちあえば どんな憂いにも耐えられた <br />僕の悲しみには君が慰めとなり 君の嘆きには僕も涙した <br /> <br /> だから神様の祝福が君にありますように <br />僕のいのちのよろこびである君よ <br /> <br /> どうか神様が君を護ってくださいますように <br />僕たちふたりを護ってくださいますように <br /> <br /> <br />ヘロゼーはドレスデンや生地であるベルリンで副牧師を務めた人物です。 <br /> 敬虔な啓蒙思想に基づき指導する教育者でもありました。 <br />ベートーヴェンが選んだこの詩には、男女の愛の理想像が描かれています。 <br />『優しき愛 - Zärtliche Liebe』が原題となっているこの歌曲ですが、 一般には『Ich liebe dich - 君を愛す』などの通称で知られています。 <br />これは歌いだしの「Ich liebe dich, so wie du mich,」からくるもので、 「Ich liebe dich」とは英語で「I Love You」を意味しています。 <br />またベートーヴェンの大半の歌曲には生前、作品番号がありませんでした。 <br />そのためこの曲にはキンスキーとハルムによって編集された作品目録の番号、WoO.(Werke ohne Opuszahl 作品番号なし)が用いられています。